March 31, 2006

『忘れ物を取りにHighburyへ』　ロンドンの治安


大型モニターに苦悩するバルセロナの姿が映し出されている。
無理も無い・・・、先日Chelseaとの死闘を制し、ＣＬを勝ち上がったばかりだ（ベスト８）。疲れているんだろう・・・。
そんな事を思いながらホテルのパブでオサスナ vs. バルセロナ戦をぼーと観ていた。時間は21時を少し回ったくらいだったか。

この日、我々はLiverpool戦を観戦。一旦ホテルに戻り、どこかに出かけて夕食をと考えていたが、私も妻も思いのほか消耗していたため、ホテルのレストランで夕食を済ませる事にした。
食事の後、妻は部屋に引き上げたが、Liverpool戦勝利の興奮が冷めない私はホテルのパブでたまたま流れていたバルセロナ戦を観戦することにする。


思うように攻められないバルセロナは既に1点をリードされている。さらにＰＫから2点目を献上。2-0。バルセロナやばいんじゃないのと思っていたら、後ろから突然若い男に声をかけられる。

「Hi, Brother, 灰皿を貸してくれ。」
（うん？"Brother"って、何だか古い言い回しだな・・・。）
「どうぞ。」

その若い男はタバコの灰を私のテーブルの灰皿にポンポンと落とした後、私の隣に立って私が見ている大型モニターを無言で見つめる。
多分この男はサッカーに興味が無かったんだろう、しばらくするとタバコの火を私のテーブルの灰皿で消し、何も言わずに去っていった。

その男は容姿から明らかにインド系だった。
私は自分では"トム・クルーズ似"だと思っているが、浅黒い皮膚の色、ぎょろりとした眼、痩せこけて彫がある顔形は"インド系"と思えないことも無い。
（「"Brother"」ってそういう意味で使ったのかなぁ・・・。それともちょっと"不良"っぽく使ったのかなぁ・・・）
そんな事を思っていたら、今度は"インド系"の着飾った若い女性3人が私の隣を通りトイレの方へ歩いて行く。
（おー、綺麗だなぁ・・・。"インド系"の若い女性って綺麗なんだよなぁ・・・。そういえば、ユーロスターの受付嬢どうしてるだろうなぁ・・・。彼女も綺麗だったなぁ・・・。）

何だかやけに後ろが騒がしい。
振り向いてみると、いるわ、いるわ、わんさといるわ。ホテルのロビーに30人くらいの若い"インド系"の集団。何かのパーティーが終わったんだろう、皆めちゃめちゃ着飾っている。
しかし、この集団、明らかにおかしい。
女性は着飾って入るが、派手すぎる。それは"夜の世界"の人のような着飾り方。
男性陣はもっと凄い。日本語で彼らにピッタリな表現は"チンピラ"。夜だというのにサングラスをかけ、趣味の悪い（派手な）スーツにとんがった靴。コーディネートを無視したハットにマフラー・・・。
イタリアン・マフィアの真似だろうか・・・。

しばらくざわめいていた集団に変化が起こる。仲間喧嘩が始まった。
体の大きい男が体の小さい男を大声で罵っている。何を怒っているのか分からないが、汚い言葉だけは聞き取れる。集団はその二人を取り囲むように輪になり、ホテルのロビーを完全に占領する。
（ちぇっ、嫌な雰囲気だなぁ・・・）
私は"集団"を眺めるのをやめ、また大型モニターのバルセロナ戦に目を移す。

しばらく"大声"の罵りが続いた後、"大男"がロビーからパブに移動してきた。
"大男"はパブのカウンターに向かう。バーテンダーに、既にパブに陣取っている自分の仲間数人に酒を出すよう要求を始める。しかし、バーテンダーはこの要求を拒否。怒った"大男"はでっかい財布をスーツから取り出し、何かを喚きながら財布の中の紙幣何枚かをバーテンダーに向かって投げつける。パブに不穏な空気が流れ始める。

バルセロナがラーションのゴールで1点返す。が・・・、カウンターの所に人だかりが出来てモニターがよく見えない・・・。ちょっと、今、いいところなんだけど・・・。
その時パブに居た一般の客は数人。
私は心を決める。何か起こったら男らしく、日本男子らしく？"闘おう"と。
私も完全に頭に血が上っていた。ロンドン最後の夜を台無しにしやがって・・・。

けたたましいサイレンの音と共に警官隊がロビーに飛び込んでくる。その数12〜3人。
やましさを感じたのか、それとも本当にやましい事をしていたのか、ロビーで一塊にたむろって居たインド人の集団がサッとバラバラになり方々に散る。その内の何人かがパブに流れ込んでくる。その5〜6人の若いインド人と共に警官隊もパブに・・・。
カウンターでは相変わらず"大男"のインド人とその仲間がバーテンダー3人とにらみ合いを続けている。バーテンダーも一歩も退かない。
警官隊は"大男"とその仲間がバーテンダーとにらみ合っているのを見つけ、その間に割ってはいる。
"大男"は相変わらず大声でバーテンダーを指差し、何か汚い言葉で叫んでいる。警官隊はかまわず"大男"を取り囲み、その場所から"大男"を立ち去らせようと試みる。抵抗する"大男"。
バーテンダーが先ほど投げつけられた"紙幣"を"大男"に向かって投げ返す。こちらも何か汚い言葉を吐いている。

"大男"はロビーに連れ出され、しばらくするとホテルの外に連れて行かれた。
しかし、パブを含め、まだホテルのあちこちにインド人集団の"残党"が残っている。
警官隊は二人一組になりホテルを巡回する。
パブに居座っていた"インド人"も連れ出される。

男女二人組みの警官が私のテーブルにやってきた。
「私はGunnerです。（I am a Gunner!）」
Arsenalのパーカーを着ていた私は、胸のワッペンを差し出す。
「・・・」
しかし、このジョークは二人にはまったく理解できないらしい。
「私は日本人です。（I am Japanese.)」
今度は女性の警官（太っていて大きかった）がニコッと笑う。
（別にこれはジョークで言ったんじゃないのに・・・）
男性の警官はニコリともしない。
（やっぱり俺はインド人に似ているのかなぁ・・・）
二人組みの警官はしばらくパブの中をぶらぶらし、ロビーの方へ歩いていった。

肝心のサッカーは、どうもバルセロナが負けたようだ。途中から落ち着いて観る事が出来なかったため、どの様に負けたのかは分からないが、少なくともＣＬでArsenalと当たったとしても、我々にも勝つチャンスは有るって事か・・・。よし、よし。

怖いもの見たさというか、野次馬根性というか、サッカーの中継も終わってしまったのでパブを後にして、ロビーの方に行ってみる事にする。ロビーはいつものように静けさを取り戻しているが、パトカーの表示灯（表示灯って言うの？）がホテルの玄関越しから差込み、赤くクルクル回る色がロビーの静けさにまだ緊張感を与えている。
ホテルの玄関にはパトカー3台と大きなバンが1台横付けにされている。その周りで警官達が無線で何かを連絡しあっている。そのあたりにもう"インド人"集団は見当たらない。

「奴等はもう出て行ったの？」
入り口に鍵をかけているホテルのマネージャに聞く。
「そうだといいね。（I hope so!)」
ホテルのマネージャも気が立っているのか、つっけんどんに私に答える。
「鍵掛けてるの？」
「出るときはそこのベルボーイに頼んで下さい。入るときはそこにベルが有るから、そのベルを押してください。誰かが鍵を開けてくれます。」
相変わらずイライラした口調でマネージャが答える。

そこにホテルのスタッフが走ってきて、何かをマネージャに言っている。どうやらまだ"残党"がホテルに潜んでいるらしい。
マネージャは先ほど掛けた鍵を開け、玄関先の警官を手招きする。
「まだ、奴等がホテルに居る！」
5〜6人の警官が急いでホテルに戻り、先ほど走ってきたホテルのスタッフとどこかへ消える。

しばらくすると3人の"インド人"が警官と共にやってきて、そのまま玄関から出て行った。
マネージャは彼等が出て行くと直ぐ玄関に鍵を掛け、私の方に肩をすくめて挨拶をしフロントの奥の部屋に消えてた。

私はしばらくの間、先ほど捕まった3人のインド人と警官がホテルに横付けされたパトカーの脇で何かを喋っているのをぼんやりと眺めていた。3人のインド人はバンに乗せられ、パトカーと共にどこかへ行ってしまった。一件落着か・・・。
レストラン、パブ、ロビーは完全に平静を取り戻し、先程の騒ぎで汚れた床をスタッフが掃除している。

私は先程まで座っていたパブの席に戻り、何となくロンドンの治安の事を考えてみる。
そういえば、今まで別に"危険"だって思った事は無かったけど、ロンドンの"若造"どもの態度は悪いなぁ・・・（特に白人若造の集団）。地下鉄の中で白人若造の集団に出くわすと、その傍若無人な態度にうんざりする事が多い。また、金曜日の夜遅くの地下鉄は危ないかも知れない。ビールを飲みながら地下鉄乗ってる人が結構居た。
そうそう、今回のツアーでBournmouth（ボーンマス）という街（ロンドンから電車で約2時間）に知人を訪ねたときの事。この街は海辺の綺麗な高級リゾートで、落ち着いた本当に感じの良い街だった。その夜、ロンドンへ帰る列車をBournmouth駅でしばらく待つ時間があったので、暇つぶしに駅の掲示板を見ると、そこには"Missing（行方不明者）"の若い女性のポスターばかり・・・。危険なんだなぁ・・・。

ホテルの玄関の方で"ドン！ドン！"という音と、何か叫び声が聞こえてきた。
（またかよ・・・。まったく・・・。）
ホテルの玄関が見える場所まで移動してみる。玄関には白人のオヤジ二人と女性が一人。
玄関のドアの鍵が掛かっていて開かないので、ドアをドンドン叩いて開けろと叫んでいる。ドアを叩いて叫んでいるオヤジはArsenalのユニフォームを着ている・・・。

ベルボーイがドアの鍵を開けると、オヤジはパブのカウンターに直行。かなり酔っている。今日のLiverpool戦の勝利で気を良くし、ホテルに帰る前にどこかのパブで一杯やってきたんだろう。
カウンターの前でバーテンダーに向かい「Arsenal!!」と両手を挙げて大声で叫んでいる。
バーテンダーからビールを受け取ったオヤジはジョッキをテーブルに置くときにArsenalのパーカーを着ている私に気付いた。
「Arsenal!! Arsenal!! Arsenal!!」と私に向かって大声で叫んでいる。
「・・・」
私は右手を挙げて彼のエールに応えて席を立つ。
（部屋に帰ろっと・・・。）
多分、ロンドンの治安を一番悪くしているのはサッカーファンなんじゃないかなぁ・・・。
それがArsenalファンじゃ無いことを祈るばかり・・・。

"オヤジ"、もう夜も更けてきたんだから大人しく寝ようね！

Arsenal Number 7/hanai
Posted by hanai at 23:18:42 | from category: 　Arsenal | TrackBacks
Comments

noboru:

こんにちは拝田です。
ふ〜んそんなことがあったんですか。
私はロンドンの治安を心配したことはないですね〜
>それがArsenalファンじゃ無いことを祈るばかり・・・。
大丈夫ですよ!
多分SPURSファンです(笑)
(April 01, 2006 06:47:35)

Henryの:

初めまして！楽しく拝見しております！
おそらく年始のManU戦だったと思います。
UKでは試合前にHenryのインタビューを放送していて、夢中になりタバコを持ったまま"No Smoking"エリアに入ってしまい、常連のFootballサポーターから、
「ねー君！そこは禁煙だからこっちの喫煙OKの場所で観なさい！」とバッチリ叱られました。むしろあちら側から見ると、治安を悪くしているのは東洋人の女の子。。。たちの悪さは違いますが、ごめんなさい！（ちなみに、サポーターの皆様からはHenryだけファンの私は邪道らしく５年間”Henryの”と呼ばれています）
(April 01, 2006 14:08:03)

london pride:

ロンドンは基本的に治安は良くありません。イギリスでは最低の部類でしょう。私もパディントン駅のタクシー乗り場で引ったくりに貴重品の入ったバッグを録られて立ち回りの末に奪え返した経験があります。目の玉が飛び出る物価のロンドンではついついホテル代も抑えざる得なくなりますが、３つ星ホテル程度ではマナーの悪い客はいるし、夜の一人歩きは緊張が伴います。ハイべりーなどイズリントン周辺も閑静な住宅街とは程遠いですからあまり安心はできませんね。（まあhanaiさんがあきれていたアプトンパーク周辺のようなイーストエンドのド迫力はありませんが！）幸いにして今まで私はアーセナルのファンに困らされた経験はありません。リヴァプールサポはおっかなかったなー。スパーズサポの溜まるパブも怖くて行きません。
(April 02, 2006 04:07:03)

hanai:

拝田さん、
普段（昼間）は心配するような事ってあまり起こらないですけど、やはり夜はちょっと危険って感じがします。
お互い気を付けましょう！
(April 02, 2006 19:45:35)

hanai:

"Henryの"さん、
はじめまして！
5年間Thierry Henryを追っかけてるんですか・・・。それは凄い！
Thierry Henry ≒ Arsenal
Arsenalの応援もよろしくお願いします！

年始のManU戦に行かれていたんですね！
私も、そして上にコメントしていただいている拝田さんもその試合は観に行っていましたよ！
0-0の引き分けで残念だったけど、やっぱりManU戦って格別ですよね。

そーですか、タバコ吸ってて怒られましたか・・・。Highburyでは客席で吸ってる人も多いですよね。

また、遊びに来てください！
(April 02, 2006 19:56:09)

hanai:

london prideさん、
そうですか、"ひったくり"とは大変でしたね。

私の泊まったホテルは4つ星で快適でしたが、この時ばかりはどうしようも無かったです。
どちらにしても、"危険"な匂いがする所には近寄らないことですね。特に夜は！
(April 02, 2006 20:01:20)
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